LED点滅回路(弛張発振回路)動作原理

LEDが点滅している様子

以下の動画で紹介したLED点滅回路{弛張(しちょう)発振回路}の動作原理についての記事です.

弛張発振回路とは??

弛張(しちょう)発振回路とは,図1のようなLEDを点滅させる回路です.

弛張…ゆるんだり張り切ったりするの意

発振…振動を発生させるの意

発振回路…電気的な繰り返し振動を発生する電子回路

図1 弛張発振回路

動作原理は??

動画で見たい人は下記YouTube動画をご覧ください↓

シミュレーションで電気の流れをわかりやすく理解できます.

文字で読みたい人はこのまま下へスクロールしてください↓

1. 電源を投入した瞬間

LEDの順方向電圧Vf > NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbeなので,より電流が流れやすいNPNトランジスタのベースに電流が流れます.

なぜ電圧が低い方に電流が流れるのか気になる人は,このリンクをクリックorこのページの下の方へスクロールしてください.

LEDの順方向電圧Vf…LEDを光らせるのに必要な電圧(赤色LEDで約2.1 V)

NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbe…トランジスタをスイッチング素子として使う場合,トランジスタをONするのに必要な電圧(約0.7 V)

図2 電源を投入した瞬間

2. トランジスタがON

NPNとPNPの両トランジスタ がONになります.

これによってLEDが点灯し,コンデンサが一気に充電されます.

図3 トランジスタがON

3. コンデンサが十分に充電

コンデンサが十分に充電されると,コンデンサの端子間電圧が大きくなります.

これによってNPNのベースの電位が下がります.

図4 コンデンサが十分に充電

なぜコンデンサが充電されるとコンデンサの両端に電位差が発生するのかを知りたい人は,このリンクをクリックor下へスクロール

4. トランジスタがOFF

NPNのベースの電位が下がると,トランジスタがOFFします.

トランジスタ がOFFすると,コンデンサが充電されないので,コンデンサはLEDを介してゆっくり放電します.

ただし,コンデンサの+側の電位がLEDの順方向電圧より低いので,LEDは光りません(LEDは発光しませんが,ダイオードとしての役割は果たします).

LEDの順方向電圧Vf…LEDを光らせるのに必要な電圧(赤色LEDで約2.1 V)

図5 トランジスタがOFF

5. くり返し

コンデンサが放電して再びNPNのベースの電位が上がると,1に戻ってトランジスタがONします.

オシロスコープで波形を見てみよう!(より詳しい説明)

オシロスコープのチャンネル1をNPNトランジスタのベース,チャンネル2をコンデンサの正極側に接続します.

オシロスコープで波形を見る

すると,次のような波形が取得できます.

波形

黄色い線がNPNトランジスタのベースの電位緑の線がコンデンサの正極側の電位です.1グリッドは500 mV(0.5 V)です.

周期的な動作をしていることがわかりますね!

拡大してみましょう.

拡大

コンデンサが放電されて電位が上がっていき,0.6 V付近でトランジスタがONして急激に電位が上がっています↓

NPNトランジスタのベースの電位が急激に上がっている

先ほどトランジスタは約0.7 VでONすると言いましたが,これは温度によってかなり左右されるので,この環境では0.6 VでONするようです.

これは2SC1815(NPNトランジスタ)のデータシートの図IB-VBEから読み取ることができます.

http://www.op316.com/tubes/tips/image/2sc1815.pdf

NPNトランジスタがONするとPNPトランジスタもONするのでLEDが光り,コンデンサの正極側(LEDのアノード)の電位が3.0 Vになっています.これは電源電圧ですね(電源とLEDを直で並列につないでいるので)↓

LEDのアノードの電位は電源電圧の3.0 V!

両トランジスタがONすることにより,コンデンサの正極側の電位が約1.5 V(黄緑の線)から3.0 Vに跳ね上がっています↓

コンデンサの正極側(LEDのアノード)の電位が跳ね上がる

トランジスタ0FFのとき…

(コンデンサ正極側の電位)=(LEDがダイオード としての役割を果たす最小の電圧1.5V)-(コンデンサの端子間電圧)

トランジスタONのとき…

(コンデンサ正極側の電位)=(LEDにかかる電圧3.0 V)-(コンデンサの端子間電圧)

ちなみにLEDが光っていない時にもLEDには1.5 Vほどの電圧がかかっています.これはLEDがダイオード としての機能を持つ最小の電圧です.順方向電圧(2.1 V)に満たないので発光はしませんが,ダイオード としての機能は果たします(図の両端の緑の線).

トランジスタのベースの電位はコンデンサの正極の電位に引っ張られて,0.5 Vから1.6 Vまで跳ね上がっています↓

コンデンサの正極側につられてNPNトランジスタのベース電位も上がる

その後,コンデンサはPNPトランジスタを介して一気に充電されるので,トランジスタのベースの電位が下がり,再びトランジスタがOFFします↓

トランジスタOFF

電圧が低い方に電流が流れる理由は??

ダイオードの特性から考える!!

「1. 電源を投入した瞬間」では,

LEDの順方向電圧Vf > NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbeなので,より電流が流れやすいNPNトランジスタのベースに電流が流れる

と書きました.

この理由を見ていきましょう.

感覚的に言えば,「LEDを光らせる方が労力が必要で,トランジスタをONさせる方がエネルギーが少なくて済むから」ですが,より詳しく理解したい人は読み進めてください.

ここでポイントとなるのは,LEDもトランジスタも,ダイオードでできているということです.

図6 LEDとトランジスタはダイオードでできている!

トランジスタは,2つのダイオードを組み合わせたような形をしていますね!

ということで,ダイオードの特性を理解すれば図1の点滅回路において

LEDの順方向電圧Vf > NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbeなので,より電流が流れやすいNPNトランジスタのベースに電流が流れる

この理由がわかりそうですよね!

ポイントとなるダイオードの特性はズバリ,

ダイオードにかける電圧が,ある一定の値(順方向電圧Vf)を超えると,急激にダイオードに流れる電流Ifが増加する

です.

図にすると図7のようになります.

図7 If – Vf

このような図は,使用する部品のデータシートから見ることができます.


CRG09Aというダイオードの場合.このリンクにアクセスして日本語版のデータシートをダウンロードします.そのデータシートの図10.1がそれにあたります.

ここで,図1の回路をわかりやすく書き換えると,このようになります.

図8 図1をわかりやすく書き換え

図8から,LEDとトランジスタのベース・エミッタ間 が並列に接続されていることが分かりますね!

厳密にはコンデンサがありますが,電荷が溜まっていない状態ではただの導線とみなすことができます.

LEDとトランジスタのベース・エミッタ間が並列に接続されているということは,この2つにかかる電圧は等しくなります.

(トランジスタのベース・エミッタ間 Vbe) = (LEDにかかる電圧Vf)

このとき,ある一定の電圧をトランジスタとLEDにかけたときのIf-Vf図は図9のようになります.

図9 ある一定の電圧をかけると,トランジスタに流れる電流>LEDに流れる電流

図9から,

LEDの順方向電圧Vf (2.1 V)> NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbe(0.7 V)なので,より電流が流れやすいNPNトランジスタのベースに電流が流れる

ということが分かりますね!!

「1.電源を投入した瞬間へ」戻る

順方向電圧が低い方が電流が流れやすい現象をLEDを使って簡単に再現

順方向電圧Vfが低い方に電流が流れるという現象は,同じLEDを使っても確認することができます.

赤色LEDの順方向電圧…約2.1 V

青色LEDの順方向電圧…約3.5 V

赤色LEDの順方向電圧<青色LEDの順方向電圧

なので,赤色LEDと青色LEDを並列に接続した場合,順方向電圧の低い赤色LEDの方が明るく光るはずです.

図10 赤色LEDと青色LEDを並列に接続してみる

まずは青色LEDのみ….

図11 青色LEDのみ

赤色LEDを加えると…

図12 赤色LEDを加える

図12から,赤色LEDを加えると,青色LEDが消灯していることが分かります.

これで,順方向電圧が低い方がより電流が流れやすい現象を確かめる簡単な実験ができました!

「1.電源を投入した瞬間へ」戻る

なぜコンデンサが充電されると両端に電位差が発生するのか??

この理由は,電池に置き換えると分かりやすくなります.

単三の乾電池の電圧は,使用前には1.6 V程度あります.

しかしすぐに1.2 V程度まで落ち,最後には1.0 V以下にまで落ちてしまいます.

コンデンサもこれと同じで,放電するにつれて電圧が下がり,

逆に充電されると電圧が上がっていきます.

試しに,下のような回路でコンデンサを充電してみます.

図13 コンデンサを充電する回路

すると,コンデンサの端子間電圧VCは下の図のようになります.

図14 コンデンサの電圧Vc

3秒間コンデンサを充電すると,コンデンサの端子間電圧は3 Vになっていることがわかります.

ですので,図4のとき,コンデンサの両端には電位差が発生します.

図4へ戻る

8 COMMENTS

三角むすび

すみません。

「コンデンサが十分に充電されると,コンデンサの端子間電圧が大きくなります.
これによってNPNのベースの電位が下がります.」

ここがわからないのです。
どうして、コンデンサが十分に充電されると,コンデンサの端子間電圧が大きくなるのですか?

また、なぜNPNのベースの電位が下がるのでか?

信じられないかもしれませんが、僕はこの単純な事がわからないのです。

ご教授、宜しくお願い致します。

返信する
Kuroneko

@三角むすび様
コメントありがとうございます.

「コンデンサが十分に充電されると,コンデンサの端子間電圧が大きくなるのですか?」
という質問について,追記しましたので,よろしければご覧ください↑

「なぜNPNのベースの電位が下がるのですか?」
という質問について.
コンデンサの正極側の電位は,LEDによって決定されています.
コンデンサが放電している間,LEDはただのダイオードとして機能しています.
LEDがただのダイオードとして機能するためには,約1.5Vの電圧をLEDにかける必要があります.
そのため,LEDのアノードの電位は約1.5Vになっています.
コンデンサに電荷が十分に溜まっていない時,コンデンサの端子間電圧を0.9 Vとすると,NPNベース電位は1.5-0.9で0.6V(トランジスタON).
コンデンサに電荷が十分に溜まってコンデンサの端子間電圧が上がり2.6 Vになったとすると,電源電圧は3Vなので,LEDには3Vかかり,NPNベース電位は3.0-2.6=0.4V(トランジスタOFF)
といった感じになります.

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Kuroneko

@三角むすび様

動画拝見させていただきました.
わざわざ実験してくださったのですね,ありがとうございます.
原理をご理解いただけたようで,嬉しい限りです!

ちなみに,1:57からの波形拡大についてですが,
・電圧レベルに対してトリガをかける
・Run/StopボタンでStopしてからつまみを回して拡大+時間軸方向に平行移動
のどちらかの方法で対処できるかと思います.

動画について,気を使って限定公開にしてくださったのだと思いますが,
もし三角むすび様さえ良ければ,一般公開にしていただけませんか?
三角むすび様のチャンネル登録者様に弛張発振回路を知っていただけますし,
より多くの人にとって有益なものになると思います.

ご検討いただけたらと思います.
黒猫

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三角むすび

ご返信ありがとうございます。
僕が弛張発振回路について動画を投稿でございますね。今の段階では、インターネットの向こう側全部の方に、これが正解だなんて言える自身がございません。また、弛張発振回路も色々なパターンもあるようですし、ディレイ回路もございますね。
でも、面白そうな企画ですね。全部のパターンの実験と資料が出来たらやってみましょうか❗
現在、Eagleの使い方のシリーズの動画を作っております。それが終わったら頑張ってみます。
出来たら、遠慮なく吟味、コメントを宜しくお願い致します。

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ジャイアントテキサスキリギリス

最初のオシロスコープのグラフとそれ以降のグラフって同じものでしょうか?

返信する
Kuroneko

コメントありがとうございます.

はい,全て同じ波形になります.
最初の波形では,トランジスタのベースの電位(黄色の線)がマイナスから始まり,GNDを通過してプラス側に出て,一瞬大きくプラスに跳ね上がった直後にまた電位がマイナスになっています.
この一瞬大きくプラスに跳ね上がった直後にマイナスの電位になる瞬間を拡大したのが二番目からの波形になります.

ご参考になれば幸いです.

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ジャイアントテキサスキリギリス

ありがとうございます!拡大図というのを見落としてました^^;
よく見るとメモリが500msから500μsになってますね。
私もバイクのyoutubeをやってますが、カスタムの際には参考にさせて貰ってます!頑張って下さい^^

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